第66章

酒井初音は通話を切ると、相変わらず気だるげに、iPadの画面へ音符をひとつ、またひとつと焼き付けていった。

『風の誓い』の脚本は、もう目を通してある。

描かれているのは裏社会の因縁だけじゃない。むしろ芯にあるのは、女性が自分の足で立ち上がっていく物語だ。

だから作詞作曲をする時も、その核を旋律のうねりに溶かし、言葉の温度と噛み合わせるように意識している。

主題歌を書き、さらにアフレコまで担当する以上、原作も最初から最後まで徹底的に読み込んだ。

この小説が売れたのには理由がある。今の芸能界で量産されるドラマ脚本は、とにかく軽い。

恋だ愛だの泥仕合ばかりで、ちょっと恨みが絡めば「全員...

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