第92章

御影家の旧邸、御影家の屋敷内。

畠山教授が帰ったのを見送るや否や、三村正明が慌ただしく駆け寄ってきた。

「御影社長、旦那様が……すぐ書斎へ来いと」

御影怜司はちらりと彼を見やる。

「用件は」

眉間が無意識に寄った。隼人は歳を重ねてからというもの、父親以上に俗世から離れた風を装うようになった。広い御影家など、あの親子が毎日茶でも点てて墨でも磨っていれば事足りる。

家のことも会社のことも、長年ほとんど口を出さない男だ。そんな隼人が今さら自分を呼ぶ。妙だった。

三村正明は酒井初音の表情をそっと窺い、歯切れ悪く言う。

「そ、それが……旦那様は何も」

初音は空気を読んだ。御影隼人に、...

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