第1章

高級マンションの前に、私は立っていた。スーツケースが腕にずしりと重くのしかかる。どこまでも続くガラス張りのファサードを見上げようと、首をぐっと反らした。お腹の中がぐるぐる回っていた――興奮半分、純粋な恐怖半分だ。

大学のせいで貯金はとっくに底をついていたし、もし川崎順平が友達の山本涼太を紹介してくれなかったら、今頃きっと、ゴキブリだらけのワンルームで見知らぬ三人との共同生活を送っていたことだろう。

エレベーターが二十八階へと昇るにつれて、私の心臓も一緒に上昇していく。山本涼太がドアを開けてくれた時、私は思わず部屋番号を二度見してしまった。

「おかえり、杏奈!」

山本涼太の笑顔は、L市の半分を照らせるんじゃないかと思うほど眩しかった。私が断る間もなく、彼は私のスーツケースをひょいと掴む。白いTシャツの下で、彼の腕の筋肉が盛り上がるのがちらりと見えた。部屋はまるで雑誌から抜け出してきたかのよう――床から天井までの窓からは街の風景が一望でき、キッチンカウンターはたぶん私の車より高価で、リビングは金持ちだと雄弁に物語っていた。

「嘘でしょ、涼太さん。この部屋、ヤバすぎる!」自分でも止められないうちに、言葉が口から飛び出した。「本当にここに居候させてもらっていいの?」

「何言ってんだよ。順平が君は家族だって言うなら、俺にとっても家族だろ」彼は大したことじゃないというように肩をすくめ、私のバッグを床に置いた。「それに、俺一人でうろついてると、この部屋は広すぎて響くんだよ」

私はすぐにスマホを取り出して、順平にビデオ通話をかけた。彼の顔が画面に映し出された瞬間、私は壁に跳ね返りそうなくらい興奮していた。

「順平! もう、本当にありがとう! この部屋、夢みたい!」私はくるくる回りながら、とんでもない広さのリビングを彼に見せた。「これが現実なんて信じられない!」

順平は、これ以上ないほどのドヤ顔をしていた。「涼太がなんとかしてくれるって言っただろ。あいつの家族はこの街のビルの半分を所有してるんだ。これくらい、どうってことないさ」

「この恩は絶対に何かの形で返すから」私は心からそう言った。川崎順平と山本涼太、二人のおかげで、彼氏とその友達という点では宝くじに当たったような気分だった。

その夜、私はキッチンで夕食を作っていた。これが現実なのだと、まだ自分の頬をつねりたくなる。明日から授業が始まるけれど、今夜だけはこの楽園でのひとときをただ楽しむことができた。野菜を切っていると、背後で足音が聞こえた。

振り返った私は、危うく自分の指を切り落とすところだった。

山本涼太が戸口に立っていた。上半身は裸のままで、胸にはまだ汗の粒が煌めいている。引き締まった腹筋は、まるで達人が丹念に彫り上げた彫刻のようだ。私の顔は核爆発でも起こしたかのように熱くなり、私は慌ててまな板に視線を戻した。

「ごめん、杏奈。今トレーニングが終わったとこなんだ」彼はまだ息を切らしながら言った。それから、ドアフレームに寄りかかる。「どうした? なんか、ちょっと慌ててないか?」

「あの、もしかして……シャツ、着てもらえませんか?」思ったより声が上ずってしまい、私の目は野菜に釘付けになったままだ。

「もうルームメイトだろ」山本涼太は笑ったが、その声色にはどこか肌が粟立つようなものがあった。「俺がいるのに慣れてもらわないと」

心臓が跳ね上がった。でも、いい意味じゃない。川崎順平は、一年以上付き合っていても、私の前で上半身裸でうろついたりしたことは一度もなかった。

これはきっと、普通の男の子の行動なんだと自分に言い聞かせた。涼太さんは順平の親友なのだ。彼が何か変なことを企むはずがない。

その夜、私はようやくバスルームでリラックスしていた。熱いシャワーを浴びながら目を閉じ、引っ越し初日のストレスが溶けていくのを感じていた。

その時、バンッとドアが開いた。

「うわっ! 悪い、杏奈。もう終わったのかと!」

目を開けると、そこに山本涼太が立っていた。だが、彼の視線は目を逸らす前に、必要以上に長く私の体の上を滑った。私は悲鳴を上げ、シャワーカーテンを体にきつく巻きつけた。

「出ていって!」

「わりい、鍵、壊れてたみたいだ」山本涼太はゆっくりと後ずさったが、彼の顔には、ルームメイトの裸を偶然見てしまった人間が浮かべるはずの狼狽の色はなかった。

私はその場に立ち尽くし、手は震え、心臓が肋骨を激しく打ちつけていた。あのドア、絶対に鍵をかけたはずなのに。私はいつも鍵をかける。それに、今のあの視線……あれは偶然なんかじゃない。

だが、疑念が忍び寄る。もしかして、本当に鍵が壊れてる? 私が神経質になりすぎてるだけ?順平は、山本涼太が三人の姉妹と育ったと言っていた――もしかしたら、彼には本当にそういう境界線というものが分からないのかもしれない。

そしてついに私が壊れてしまったのは、午前一時に寝室のドアがノックされた時だった。

ちょうど眠りに落ちかけた頃、コンコン、と控えめな音が聞こえた。

「杏奈……眠れないんだ……」

ドアの向こうから聞こえる山本涼太の声は、怯えた子供のようにか細く、弱々しかった。彼のことを少し可哀想に思う自分がいた。

「涼太さん、自分の部屋に戻って!」私は声を張り上げた。

「君の部屋の床で寝かせてもらえないかな? 悪夢ばっかり見るんだ……」彼の声はさらに哀れっぽくなった。「変なことはしないって約束するから」

頭の中の警報がけたたましく鳴り響いた。悪夢を見るからって、女性のルームメイトの寝室で寝かせてくれなんて頼む大人の男がどこにいる?

「絶対に嫌! 怖いなら順平に電話しなさいよ!」私は言い返した。

沈黙。それから、足音が遠ざかっていく。その後、私は何時間も眠れずに横たわっていた。

翌朝、もう我慢の限界だった。私は起きるなり、順平にビデオ通話をかけた。

「順平、涼太さんのことで話があるの」私の声は震えていた。「彼のせいで、すごく居心地が悪いの」

「杏奈、それが涼太なんだよ」順平はシリアルを口いっぱいに詰め込み、もぐもぐしながら言った。「あいつ、三人の姉妹に囲まれて育ったんだぜ。そりゃもう、人の気持ちなんてお構いなしだろ。女に囲まれて育った男って、そういうもんだろ」

「これは普通のルームメイトの問題じゃない!」私の声が上ずった。「昨日の夜、私の部屋に来て、ここで寝かせてほしいって言ったのよ!」

順平の顔が一瞬こわばったが、すぐに緩んだ。「考えすぎだよ。あいつに害はないって。たぶん、飲みすぎてて頭が回ってなかっただけだろ」

川崎順平が私の心配事を一蹴するのを見て、腹に一発食らったような衝撃だった。世界で一番信頼している人が、私のことを大げさだと思っている。

「でも、順平――」

「杏奈、聞けよ」彼の口調が鋭くなった。「涼太は俺たちにすごく大きな恩を売ってくれてるんだぞ。このマンションの家賃がいくらかかるか分かってるのか? 君をタダで住まわせてくれてるんだ。少しは感謝の気持ちを見せろよ」

言葉が喉に詰まった。順平の言う通りだ――山本涼太は私たちをものすごく助けてくれている。それなのに、なぜ私は美しい檻に閉じ込められているような気分なんだろう?

電話を切った後、私はこの豪華な部屋に座っていた。そこは突然、牢獄のように感じられた。山本涼太の「親切」の本当の代償とは何なのだろう、と私は考え始めていた。

山本涼太の笑顔が脳裏をよぎる――なぜだか肌が粟立つような、あの無邪気な表情が。

もしかしたら、本当に私がおかしくなってるのかもしれない。でも、私の本能のすべてが、これはまだ始まりに過ぎないと叫んでいた。

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