第2章

三日目。山本涼太の足音が聞こえるたびに、まだびくっと体が跳ねてしまう。雑誌に出てくるような豪華なものに囲まれているというのに、まるで薄氷を踏むような思いだった。

その日の午後、私がリビングのカウチで教科書を広げて寝そべっていると、山本涼太が隣にどさりと腰を下ろした。

「一日中、その本に釘付けだな」彼は頭の上で腕を伸ばし、タンクトップの裾がずり上がる。「下のジムに行ってみないか? 少しは休憩が必要だろ」

彼を見上げる。トレーニングウェアは体のラインを少しも隠してはおらず、自分の頬が熱くなるのを感じた。反射的に断ってしまいたい気持ちもあったが、頭の中で川崎順平の声が響く――『もう少し優しくしてみたらどうだ』。

「ええ」私は心理学の教科書を閉じた。「でも、ジムウェアなんて持ってきてないわ」

「心配いらない。下には全サイズの予備が置いてあるから」山本涼太の笑顔は人を惹きつけるものがあった。「ほら、案内してやるよ」

地下ジムは高級ホテルのそれのようだった。山本涼太は私にトレーニングウェアを一式つかんで渡すと、女子更衣室を指さした。体にフィットするスポーツウェアに着替えて出てくると、彼はすでに準備運動を始めていた。

「簡単なものから始めよう」山本涼太はウエイトエリアに向かった。「基本的な動きを教えてやる」

私はベンチプレスに身を落ち着かせ、バーに手を伸ばした。すると、いつの間にか山本涼太が私の上に覆いかぶさるようにして、その手を私の胸の真上に添えていた。

「ほら、補助してやるよ」彼の声は低く、顔が近すぎる。「怪我でもされたら困るからな」

彼のコロンと汗が混じった匂いがして、その体から発せられる熱を感じる。肌が粟立ち、私は思わず彼に頭突きしそうになりながら、勢いよく上体を起こした。

「大丈夫です、ありがとう!」思ったよりもきつい口調になってしまった。「一人でできますから」

山本涼太は、まるで銃でも突きつけられたかのように両手を挙げて後ずさった。「心配してやってるだけだろ、杏ちゃん。そんなにカリカリしなくてもいいじゃないか」

その言葉――『杏ちゃん』――に、胃がむかむかした。川崎順平は私のことを甘えるように『杏奈』と名前を呼ぶ時もある。でも、『杏ちゃん』? それは全く別の何かのように感じられた。

トレーニングを早々に切り上げ、エレベーターへと急いだ。山本涼太もついてきて、昇っていく間ずっと、彼の視線が背中に突き刺さるのを感じていた。

その夜は、動画でも観ながら自室に引きこもるつもりだった。だが、リビングではすでに山本涼太がポップコーンとビールを手に陣取っていた。

「映画の時間だ」彼は隣のカウチクッションを叩いて言った。「こっち来て、付き合えよ」

一瞬ためらったが、私は腰を下ろした――ただし、カウチの反対側の端に。山本涼太がリモコンの再生ボタンを押すと、オープニングクレジットが流れ始めた。

十分も経たないうちに、私はこれがどういう種類の映画なのかを悟った。スクリーンの中のカップルが互いの服を剝ぎ取り始めると、途端にリビングがひどく狭く、そして暑苦しく感じられた。

「あの、涼太さん?」顔から火が出そうだった。「何か他のものにしませんか?」

「これがどうかしたか?」山本涼太は私との距離を詰めるように、じりじりと近づいてきた。「ただの映画だろ。でも、かなりそそるよな?」

閉じ込められた気分だった。彼はわざとこれを選んだのだ――確信があった。

「疲れてるので、もう寝ます」立ち上がろうとしたが、山本涼太の手が伸びてきて私の手首を掴んだ。

「そんな堅物になるなよ」彼の指が私の腕に食い込む。「エロ動画か何かを観てるわけでもないだろ」

「離してください」私は腕を振りほどき、ほとんど駆け足で自分の部屋へ向かった。

ドアに背中を押し付け、心臓が激しく鼓動していた。山本涼太はどんどん大胆になっている。そして私は、完全に一人ぼっちだと感じていた。携帯を掴み、順平に電話をかけた。

「順平、ここ、何かが本当におかしいの」私の声は震えていた。「今日の涼太さんが、彼が――」

「杏奈」順平の声は平坦で、苛立っていた。「涼太のことで文句を言うのはやめてくれないか? 君が彼に冷たい態度をとってるって聞いたぞ」

血の気が引いた。「彼、あなたに私の話をしてるの?」

「親友だからな。話すに決まってるだろ」順平はさらに苛立ちを募らせたようだった。「少しは感謝してみたらどうなんだ? 君が今住んでる場所に、どれだけ多くの人間が住みたがってるか分かってるのか?」

電話を切った後、私はベッドに座り、心が空っぽになったような虚無感に襲われた。順平でさえ、今や山本涼太の味方なのだ。私には誰もいない。

午前二時頃、リビングからの声で目が覚めた。ドアまでそろそろと近づき、隙間から覗き込む。山本涼太が一人でカウチに座り、ビール瓶を片手に誰かと電話で話していた。

息を殺し、耳を澄ませる。

「……もう時間がないんだよ」山本涼太の言葉は呂律が回っていない。「奴らがしびれを切らし始めてる……」

心臓が止まった。『奴ら』って誰?

山本涼太は、さらに声を大きくして話し続ける。「順平がこの取引からビビって逃げたりしなきゃいいがな……金が良すぎるんだ……」

『取引』?『金』? 頭の中で恐ろしい可能性が高速で駆け巡り始めた。一体どんな取引? そして、それが私と何の関係があるというの?

ベッドへと忍び足で戻ったが、山本涼太の言葉が頭の中で繰り返し再生され続けた。その夜は、一睡もできなかった。

次の朝、私は決心した。順平と直接会って、本当の答えを聞き出さなければならない。

コーヒーを飲みながら、順平を驚かせるために彼の大学まで行くと山本涼太に告げた時、彼の反応が知りたかったことの全てを物語っていた。

「は? なんで?」山本涼太はコーヒーを吹き出しそうになり、顔面蒼白になった。「何かあったのか?」

私は彼の顔を注意深く観察した。それは単に心配している友人の反応ではなかった。

「彼氏に会いたくなっただけですよ」私は声を軽く、さりげない調子に保った。「何か問題でもあります?」

「いや、もちろんない」山本涼太は取り繕おうとしたが、その目に浮かぶパニックは見て取れた。「楽しんでこいよ」

私が立ち去る時、彼が私を見ているのを感じた。直感が告げていた。彼はすでに何かを企んでいる、と。

手遅れになる前に、この「取引」が何なのかを突き止めなければ。

川崎順平と山本涼太は何に合意したの? そして私は、彼らが遊んでいるこのたちの悪いゲームの、ただの交渉の駒か何かなのだろうか?

一泊用のバッグに荷物を詰めながら、手が震えた。あんなに感謝していたこの美しいアパートが、手の込んだ罠のように感じられ始めていた。

そして私は、最初からずっと標的だったのだと、確信に近くなっていた。

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