第10章 彼が病院に来た

「入りなさい」江口美月は冷たい声で手招きし、椅子を見つけて男を座らせた。

桜井昭子は、男の下心を一目で見抜いていた。夜更けにわざわざやって来て、何か手伝えることはないかと尋ねるなんて、明らかにうちの美月ちゃんに気があるに決まっている。

江口美月の性格からして、本当に嫌いなら、近づく機会など与えるはずがない。そう考えると、二人は両想いなのかもしれない。

「こんにちは、長谷川悠人と申します。美月ちゃんの同僚です」男は礼儀正しく挨拶し、百合の花をテーブルに置くと、江口美月の隣に腰を下ろした。

その立ち居振る舞いは節度があり、桜井昭子は心の中で、かろうじて男に合格点を与えた。

うちの美月ちゃ...

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