第165章 心地よくない

あれは、篠崎司が置き忘れていったものだ。取りに戻ってくるだろうか。

篠崎のことを考えた途端、彼女の瞳がふと翳(かげ)りを見せる。その瞬間を、古川蘭は見逃さなかった。

やはり、桜井さんの心にはまだ篠崎社長がいるのだ。ただ、二人の間の些細なすれ違いが、今のこうした状況を招いてしまったに過ぎない。

蘭は居ても立ってもいられず、入り口へと歩み寄って声をかけた。

「桜井さん。実は篠崎社長は、遠山様があなたに付き添われると思っていたからこそ、立ち去る決断をされたんです。もし今のあなたの状況を知れば、間違いなく彼は駆けつけてくれるはずです」

その言葉に、昭子は扉の方へと視線をやり、寂しげに首を横に...

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