第196章 帰ろう

篠崎司はティッシュを引き抜き、彼女の口元を優しく拭う。その瞳には、痛いほどの愛おしさと名残惜しさが滲んでいた。

ここ数日の己の振る舞いを思い出し、底知れぬ罪悪感が胸に込み上げる。

抑えきれない感情が、彼を突き動かした。背後から桜井昭子を強く抱きしめる。今の彼には、彼女の瞳を直視する勇気など欠片もなかった。

この無言の責め苦に、気が狂いそうだった。

背中に伝わる篠崎司の震え。胸元の古傷が脳裏をよぎり、桜井昭子の瞳から光が失われていく。

一緒にいれば、互いを傷つけ合うだけ。離れることこそが、最善の結末なのだ。

心身ともに疲弊しきっていた桜井昭子は、間もなくして眠りに落ちた。

篠崎司は...

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