第54章 目に入れない

「五年前、遠山圭吾は交通事故に遭い、当時高額な治療費が必要でした。桜井さんはやむを得ず、身を売るという選択をするしかなかったのです。しかし、遠山圭吾は記憶を失い、桜井さんのことを覚えておらず、二人の連絡も途絶えてしまいました」

五年前の出来事であることに加え、桐山家の長男が意図的に情報を抹消したこともあり、須田樹也には当時の詳しい経緯を調べ上げることはできなかった。

須田樹の話を聞きながら、篠崎司の顔色は少しずつ険しくなっていく。当時、桜井昭子が誰かを救うために身を売ったことは知っていたが、その相手が桐山霖だったとは。

たとえ既に現実を受け入れていたとしても、こうして直に耳にすると、やは...

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