第76章 すぐに東都へ

その時の桜井昭子がどれほどの苦痛を経験したのか、彼には想像もつかなかった。

そして、その全てを引き起こしたのが、まさか自分だったとは。

彼の昭子は、心から篠崎司を愛したのではなく、彼を忘れるためにそうしたのだ。

「過ぎたことはもう水に流しましょう。起きてしまったことは変えられないわ。あなたたちの間には、ただ縁がなかったとしか言えない」

江口美月はそう言うしかなかった。苦痛に震える桐山霖を一瞥し、どうしようもなく車を降りた。

江口美月が去って間もなく、ボディガードが車の窓をノックした。

「桐山社長、会長がお呼びです」

電話の向こうから、低く沈んだ声が聞こえてきた。

「霖、すぐに湊...

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