第50章

「いいわ」

宝生知優は顎をつんと上げ、瞳の奥を氷のように冷やした。

「じゃあ、今ここで縁を切りましょう。私には……あなたみたいな父親、いないもの」

「この恩知らずが!」

宝生隆教は胸元を押さえ、憎々しげに睨みつけてくる。

恩知らずで結構。

宝生知優は口の端だけを吊り上げ、嘲るように笑ってドアを開けた。踏み出す直前、背中越しに一言だけ落とす。

「……お達者で」

扉が閉まる、その刹那。

彼女は素早く目尻の湿り気を拭い、何事もなかった顔を作った。

視線の先――階下のリビングに、人がいる。

宝生ミクルが鈴崎潤に何かを囁きながら、わざとらしく身体を寄せていた。柔らかな腰をぐいと沈...

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