第207章 IFストーリー

 氷川香織が家に来ていたあいだ、わたしはほとんどずっと、窓に向かってベランダに立ち尽くしていた。あの人の賢さをたたえた瞳を、正面から見る勇気がなかったのだ。あの眼差しは、人の心の奥底まで見透かしてしまいそうで――さっき玄関で見せたわたしのわずかなほころびも、もうとっくに勘づかれているのかもしれない。

「さて、海子さん、そろそろ会社に戻りますね。あなたは家でご主人の看病をしてあげて。せっかくだし、少し休養だと思ってゆっくりしていればいいわ。仕事のほうは、全部落ち着いてから戻ってくればいいの。大丈夫、これはわたしの考えだから……」

 うちに上がってからまだ十分も経っていないというのに、氷川香...

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