第230章 IFストーリー

 私と父が家の玄関をくぐったとき、海子はもう夕食を整えていた。振り向いた海子の表情は、朝とまったく変わらない。私も同じだ。唯一違っていたのは父だった。

 さっきまでの会話が尾を引いているのだろう、海子の姿を目にした瞬間、父はどこか気まずそうに視線を泳がせた。やつれた頬に伸びかけの髭、その青白い顔が、うっすらと赤く染まる。その表情の変化は、当然ながら海子の目にも入る。海子もなにかを察したのか、一瞬、言葉を失い、二人のあいだに妙な気まずさが漂った。

「ずいぶん豪勢じゃないか……」

 私はわざと笑い声を混ぜてそう言い、重くなりかけた空気を、軽く弾くように和らげた。

 それから、家族三人で食...

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