第273章 IFストーリー

 どうやって家まで帰ってきたのか、自分でもよく分からない。

 リビングの明かりをつけて、ネクタイをゆるめる。体を締めつけていたスーツを脱ぎ捨てる。この「枷」に触れているときが、一日の中でいちばんほっとするはずなのに――ソファに腰を下ろしても、少しも楽にはならなかった。

 胸の内はぐちゃぐちゃだった。部屋はしんと静まり返っていて、自分の心臓の音が「ドクン、ドクン」とやけに大きく響いている気がする。

 視線を部屋の中にさまよわせる。空気の匂いも、家具の配置も、見慣れた我が家のまま。今夜はたぶん、この家がいちばん静かな夜だ。父も海子もいない。ここにいるのは、私ひとりきり。

 広い家で独り寝...

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