第44章

浅沢瑶は拒みもせず、同意もしなかった。

三十分後、盛岡晃の運転する車が浅沢の旧邸を後にした。

車内は静まり返り、ただ柔らかな音楽だけが流れている。

助手席に座る浅沢瑶は、窓の外を飛ぶように流れていく街の景色を見つめていたが、その意識は遠く離れたところにあった。

「盛岡晃」

ふいに彼女が口を開いた。よどんだ水面のように、ひどく静かな声だった。

「離婚の手続きは、いつになったらしてくれるの?」

車内の音楽が唐突に止まり、ハンドルを握る盛岡晃の手にぎゅっと力がこもる。指の関節が白く浮き出た。

彼が顔を向ける。底知れない漆黒の瞳が彼女を射抜き、その奥には恐ろしいほどの嵐が渦巻いていた...

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