第118章

指に挟んだ煙草から紫煙が立ち上り、その揺らめく煙が、彼の瞳の奥で渦巻く感情を覆い隠していた。

運転席の漆野哲也は、バックミラー越しに張り詰めた主の横顔を盗み見ながら、複雑な思いを噛みしめていた。

迷いはあったが、彼は意を決して低く問いかけた。

「鴉崎社長、部下を向かわせましょうか?」

鴉崎響は沈黙したまま、煙草を口元へと運び、深く吸い込んでからゆっくりと煙を吐き出した。

彼は自嘲気味に笑い、視線を窓外へと逸らす。

まさか、彼女にあれほどの身のこなしがあるとは予想外だった。

逃げるためなら、手段を選ばないというわけか。

長い沈黙が続き、漆野がもう返答はないかと思い始めた頃、鴉崎...

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