第161章

漆野哲也は一瞬ためらい、声を潜めて答えた。

「鴉崎社長。奥様は外にいらっしゃいます。ひどく心配されているご様子で、それに……自責の念に駆られているようで。少し一人になりたいと仰っています」

鴉崎響の蒼白な顔に、微かな驚きが掠めた。

次いで、その口元に淡い弧が描かれる。

深夜、病院の特別病棟は静寂に包まれていた。

月見華は、自分がどうやって病室エリアを抜け出したのかさえ覚えていない。

まるで亡霊のように非常階段の踊り場へと辿り着くと、冷たい段差に身を縮め、膝に顔を深く埋めた。

どれくらいの時間が過ぎただろうか。

ふいに、体温の残るスーツの上着が、彼女の肩にそっと掛けられた。

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