第16章

林原撫子は、相手の目の奥に揺れる感情を眺めて、どこか可笑しくなった。

恐怖したかと思えば、次の瞬間には計算するように黙り込み、最後には腹を括ったように強がりを選ぶ。

怖いくせに、無理をしてまで突っかかってくる。――背後に誰かがいるのだろう。

撫子は余計な言葉を省き、上着の胸ポケットからスマホを取り出すと、適当に数回タップして耳に当てた。

それを見た女の顔が、目に見えて青ざめる。

「な、なにしてるの? 通報とかやめて!」

そう叫びながら、襟元からコーヒーがぽたぽた落ちているのも構わず、女はスマホを奪おうと手を伸ばした。だが撫子はとっくに読んでいる。すっと一歩退いて、その指先を空振り...

ログインして続きを読む