第33章

林原撫子は肺の奥に溜まっていた息をふっと吐き出し、もう片方の手で傷口についた泥と小石を拭う。薄手の上着を脱ぐと、それをきゅっと結んで応急の止血にした。

背後から警官がハンカチを差し出してくる。村木原矢が受け取り、そのまま林原撫子へ渡した。

『ありがとう』

短く礼を言い、林原撫子はハンカチで頬に跳ねた血をぬぐう。横目で見ると、さっきの誘拐犯が倒れたあたりには、小さな血だまりができていた。

生々しい光景のはずなのに、恐怖も吐き気も、思ったほど湧いてこない。瞳の奥に浮かぶのは、かすかな冷笑だけ。

あれほど残酷な真似をしてきた人間が、最後に迎えた結末だ。自業自得――そう言い切ってしまえる。...

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