第59章

『村木家の若様?』

林原撫子はわざとらしく目を丸くし、すぐに手をひらひらと振った。『さあ。そこまでは知りません』

小さく笑って、玄関先で固まっている林原父をするりと避け、そのまま家の中へ。声に気づいた林原母もソファから立ち上がったが、入ってきたのが林原撫子ひとりだとわかると、露骨に動きが止まった。

隣では林原寧々の浮き立った表情が、ぴたりと凍りつく。撫子が入ってきた途端、理由もなく胸の奥がざわついた。

『……なんで来たの?』

最初に口を開いたのは林原景也だった。スマホを置き、ソファに身を沈めたまま苛立たしげに言う。『父さん母さんが呼んだの、村木原矢だろ?』

林原撫子は答えない。ス...

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