第30章

陸川雅樹は不機嫌そうに言った。

「だったら、なんで救急車を呼ばない。もしくは最初から病院に連れていけ」

叱りつけながらも、足は自然と速くなる。

菅野優斗が答える。

「本人が行きたがらないんだよ。たぶん、自分がエイズだと思い込んでて……病院で差別されるのが嫌なんだ」

「エイズじゃない」

陸川雅樹は吐き捨てるように言った。

「おじさん、発症してるじゃん!」

菅野優斗の声が強くなる。――誤魔化すな、と言わんばかりに。

「バカ!」

車のそばまで来ると、陸川雅樹は身をかがめて車内を覗き込んだ。

後部座席に横たわる女は、顔色が幽霊みたいに白い。唇に血の気もない。

陸川雅樹の表情が...

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