第25章 梵音先生、お名前はかねがね伺っております

 

「停めて!」

須藤寧音の声は、限界まで張り詰めた弦みたいに震え、切迫した熱を孕んでいた。

だが隣の男は、聞こえないふりをする。

古川寒弥は減速するどころかアクセルを踏み込む。黒いベントレーが矢のように、真夜中のがらんとした通りを唸り声を上げて駆け抜けた。

「古川寒弥! 停めろって言ってるでしょ! 聞こえてないの?!」

息子への不安と、この男の横暴への怒り。二つに挟まれた理性が、ぷつりと切れる。

寧音はハンドルに手を伸ばし、乱暴に奪い取ろうとした。

「キィィィ――!」

タイヤが路面を裂くような悲鳴を上げ、車体が危うい弧を描く。

古川寒弥は舌打ちを噛み殺すようにハンドルを切...

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