第26章 お腹に宿っているのは、いったい誰の子どもだ

 

黒のベントレーが、沈黙したまま怒りを孕んだ獣のように、深夜のがらんとした道路を切り裂いていく。

須藤寧音は古川寒弥のジャケットにきつく包まれていた。鼻先をくすぐるのは、何度も嗅いだことのある彼の匂い。さっきまでの個室での、肝が冷えるような一幕が、脳裏で何度も巻き戻される。

自分は愚かじゃない。今夜、古川寒弥が現れなかったら――待っていたのがどんな地獄だったか、わからないはずがない。

だが、命拾いした安堵はすぐ、より濃い屈辱と怒りに塗りつぶされた。

「……人をつけてたの?」

須藤寧音がようやく口を開く。

ハンドルを握る男の手の甲には血管が浮き、掌の傷がじくじく疼いているはずなの...

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