第35章 これは梵音先生ではありませんか

 

病院から戻ってきたあとの数日、須藤寧音は自分を完全に閉ざしていた。

小寺蘭は心配で、文字どおり片時も離れずに付き添った。けれど何を話しかけても、何をしてやっても、寧音は死んだ水面みたいで、いっさい波紋が立たない。

泣きもしない。取り乱しもしない。

ただ静かに座って、ときには窓の外を見つめたまま、一日が終わる。

魂だけ抜かれたようなその姿は、泣き叫ぶ崩壊よりもずっと、見ている側の心臓を冷やした。

そんな息苦しい沈黙を破ったのは、一本の国際電話だった。

立花徹からだ。

「須藤さん、突然すみません」

受話口の向こうの声は、いつもどおり澄んで穏やかで、山間の渓流を撫でる風みたいに...

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