第57章 ねね、本当に決めたの?

数日つづいた長雨が、星市をまるごと灰色に沈めていた。

湿った空気は肺の奥までまとわりつき、息をするたびに重い。――須藤寧音の胸の中と、よく似ていた。

小寺蘭のマンションは暖房がよく効いている。なのに、寧音はソファの上で膝を抱え、温いミルクを両手で包んでも、骨の芯に居座る冷えが消えなかった。

目の前には、分厚い資料の束。

スイス各都市の案内。現地での生活ガイド。妊娠中の長距離フライトに関する注意事項を、細部までまとめたもの。

来週の火曜。立花徹のチームと合流し、スイスへ飛ぶ約束の日だ。

残された時間は、もう多くない。

あの男は、空っぽの婚約書一枚で自分を縛り、もう一度檻へ戻そうと...

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