第115章

清宮紬はくすりと笑い、手を伸ばして彼のがっしりした胸板を押さえた。シャツ越しに伝わる、落ち着いた鼓動。指先がそれを確かめる。

「口が減らないのね」

指の腹に少し力を入れ、半歩にも満たない距離だけ押し返す。

「高村美咲は、誘いは全部断ったわ。こっちは他人の金儲けに付き合ってる暇なんてない」

榊原冬真はその流れのまま彼女の手を捕まえ、唇に落として軽く口づけた。視線だけが、深く沈む。

「着替えろ。連れていくところがある」

引っ張られて立ち上がり、清宮紬が首を傾げる。

「どこへ?」

「デートだ」

それから三十分後。黒いマイバッハが邸宅を出て、滑るように車の流れへ溶け込んだ。

運転...

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