第32章

清宮紬がふと振り向いた、その瞬間。榊原冬真の手の中でスマホがかすかに震えた。視線を落とした途端、息が一拍止まり、心臓だけが勝手に暴れ出す。

次の瞬間、掴まれていた紬の左手に、きゅっと小さな痛みが走った。同時に、耳元で冬真の切羽詰まった声が響く。

「早く」

気づけば紬は、そのまま車へ押し込まれていた。

行きとはまるで違う。車は制御を失った獣みたいに、山道を狂ったように駆ける。木々の隙間から落ちる月光が、冬真の横顔に斑の光を刻んでいた。

紬はゆっくりと、きつく握られていた左手を引き抜く。そして代わりに右手を差し出した。

「用事があるなら、病院の入口で降ろしてくれればいい」

冬真は遠...

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