第74章

 そう言うと、榊原冬真はごく自然な仕草で清宮紬の手を取り、くねくねと続く小道を辿って山の奥へ歩き出した。

 時刻はすでに夕刻。橙色の光が足元の青石の階段に薄く広がり、左右には濃い緑がむせるほど茂っている。ときおり、名も知らぬ鳥の鳴き声がひゅっと飛んだ。

 紬は敏感に気づいていた。車を降りてからの冬真は、笑みの質が変わっている。親しみやすい――いや、それよりも幼い。数歳の子どもみたいに、屈託なく笑う。

 標高が上がるにつれ、空はみるみる夜へ傾いた。四方から霧が湧き、前も後ろも白一色に塗りつぶされていく。

 湿った霧が二人の裾を濡らし、紬は思わず肩をすくめた。次の瞬間、肩先にふわりと上着...

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