第84章

電話はスピーカーにしていない。だから受話口から漏れてくるのは、蚊の羽音みたいに細切れの雑音だけだった。

平井は眉をひそめ、目の前の若い男がスマホに向かって「ええ、はい……あ、えっと……」と曖昧に相槌を打ち続けるのを見ていた。やがて男は通話を切り、どうにも言いづらそうな顔になる。

「……ほんま、すんません。たぶん今は来られへんみたいですわ」

「……あ?」

平井のいったん開いた拳が、またぎゅっと握りつぶされる。背後の護衛たちも、さっと身構えた。

その気配だけで若い男は腰が抜けかけ、慌てて両手を振る。

「ま、待ってください! 怒らんといてください!」

「公園の件、平井さんももう知って...

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