第91章

そのあと扉の外で二人が何を話していたのか、北条千隼にはもう耳に入らなかった。ゆっくり振り返り、鏡の中の自分を見ようと必死に目を見開く。けれど視界は、どこまでも真っ暗だった。

――寝た? あり得るか。

岩崎真乃は初めて顔を合わせたとき、「あなたは初恋なの」と言っていた。初めて唇を重ねたときだって、頬を赤らめて「キス、したことない……」と囁いたじゃないか。

北条千隼は機械みたいに首を横に振る。さっき耳に滑り込んできた言葉を、頭の中から振り落とすみたいに。

正直に言えば、さっき清宮紬と再会するまで、千隼の中には元婚約者への淡い期待が残っていた。

清宮紬は滅多にいない万能型だ。容姿も能力も...

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