第93章

一方そのころ。美坂莉央はここ数日、清宮紬に何度も電話をかけ続け、ようやく家へ呼び戻すことに成功していた。

その夜、清宮紬はスーツケースを引きながら清宮邸の玄関に姿を見せる。

執事の木村が恭しく手荷物を受け取り、声を落として告げた。

「お嬢様、奥様が応接間でお待ちでございます」

紬は小さくうなずいただけで、眉も目元も動かさない。まっすぐ応接間へ向かった。

足を踏み入れた瞬間、黒革のソファに座っていた美坂莉央が立ち上がり、早足で寄ってくる。

艶のあるシルクのナイトウェアは仕立てがよく、メイクも隙がない。穏やかな気配をまとい、親しげな笑みを浮かべたまま、紬の両手を取ろうとする。

「紬...

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