第2章
私は、我が家の薔薇をめちゃくちゃに切り刻んでいた。
午後三時。私はここに突っ立って、まるで個人的な恨みでもあるかのように、林田祐二が育てた白薔薇をめちゃくちゃに切りつけていた。ある意味、それは事実だった。この家にある完璧なものすべてが、クソみたいな嘘なのだ。
黒石春子の薔薇。彼女が好きだからという理由で、彼が植えたものだ。
チョキン、チョキン、チョキン。私の手は無意識に動き続け、頭の中は昨日の悪夢に囚われたまま――林田祐二が、健太の殺害について、まるで愛する黒石春子のためのただの頼まれ事を片付けるかのように、こともなげに話していた声がこびりついて離れない。
剪定ばさみが滑った。
「クソッ!」指から血が滲み、真っ赤な滴が下の白い花びらに落ちる。完璧な花の上に広がる深紅を、私はじっと見つめた。
「ああ、なんてことだ、紗代、どうしたんだ?」
背後から聞こえた林田祐二の声は、パニックと心配に満ちていた。彼がスタジオから出てきたことにさえ気づかなかった。
「見せてみろ」彼はそう言って、優しく私の手を取った。かつては私を安心させたその感触が、今は肌を粟立たせる。
「ちょっと切っただけ」私は声を平静に保ち、なんとかそう言った。「ぼうっとしてて」
「ぼうっとしてて?血だらけじゃないか」彼はすでに携帯を取り出していた。「真里亜!救急箱を、今すぐ!」
彼が私の指を実に優しげな心配顔で検分するのを、私は見ていた。アカデミー賞ものの演技だわ、まったく。
「ストレスが溜まりすぎているんだ」彼はティッシュを傷口に押し当てながら、そう呟いた。「またヨガ教室の連中に何か言われたのか?」
ストレス。あんたには分かりっこない。
四年前、私は世界の頂点にいた。ゴールデンイーグル賞に指名され、黒石亮と婚約し、芸能界のゴールデンカップルと呼ばれていた。
そして、健太が死んだ。
黒石亮の八歳の息子。彼の一人息子で、跡取りで、彼の世界の中心だった。私を「紗代おばさん」と呼び、結婚式でリングボーイを務めてくれるはずだった男の子。
世間の悲しみは、即座に悪意へと変わった。私が中で化粧を直している間に、どうして黒石亮の大切な息子を死なせることができたのか?なんて自己中心的で、怠慢な女なんだ?
見出しは私を怪物に仕立て上げた。
「花嫁候補の虚栄心が子供を殺した」
「未来の継母、その致命的な怠慢」
「北都芸能界一の嫌われ女」
葬儀の三日後、私は暴徒に見つかった。怒れる親たち、悲しむ見知らぬ人々、健太に会ったこともないくせに、その怒りを正当化できると感じている連中。彼らは私のアパートの前で私を追い詰めた。
「子供殺し!」彼らは拳を振り上げ、そう叫んだ。「お前に子供を持つ資格はない!」
殴られたのは数分間だったが、私は永遠に傷つけられた。内臓の損傷はあまりにひどく、ようやく病院にたどり着いたとき、医師たちは最後の一撃をくれた。私が自分の子供を産むことは、二度とない、と。
だが、それで終わりではなかった。
二週間後、私はマスコミの狂騒から逃れるため、ホテルに滞在していた。両親のもとには殺害予告が届き、万代の実家の前には抗議者が居座っていた。
「新京の姉さんのところに行ってくるわ」最後の電話で母はそう言った。「少しほとぼりが冷めるまで」
二人がそこにたどり着くことはなかった。
家の火事は午前三時に起こった。生存者はいなかった。捜査は漏電と結論付けたが、私には分かっていた。タイミングが良すぎる、綺麗すぎる。
後になって、保険金がペーパーカンパニーに支払われたことを知った。その数ヶ月後、同じ会社が、黒石春子が後援する子供たちのための慈善団体に寄付をしていた。
林田祐二が私の両親を殺させたのだ。後始末をするために、静かに、効率的に。
そして黒石春子は?彼女はすべてを通して私の手を握りしめていた。ティッシュを持ってきて、私の世界が燃え落ち、私の体が壊れていく間、慰めの言葉を囁いた。
完璧な、クソみたいな親友。
そして林田祐二は、ホテルの屋上で飛び降りようとしていた私を見つけた。私の救世主。私のヒーロー。
私が騙された、最高に愚かな男。
「よし」林田祐二は包帯を巻き終えて言った。「これで大丈夫だ」
私は白いガーゼを見て、それから彼の心配そうな顔を見た。「ありがとう。あなたはいつも、こんなに私のことを大事にしてくれるのね」
「当たり前だろ」彼は私を腕の中に引き寄せた。「君は俺の妻だ。君を守るのが俺の役目なんだから」
私を守る。吐き気が喉の奥からこみ上げてきた。
「そうだ」彼は私の髪を撫でながら続けた。「明日は君の両親に会いに行こう。白い蘭を用意させたんだ。お二人が好きだった花だ。もう四年だ、紗代。まだ寂しいだろう」
林田祐二が二人を殺させてから四年。そして明日の彼は、偽物の花と空涙で、その墓の前に立つのだ。
「なんて優しいの」私は無理にそう言った。「あなたがいなかったら、私どうしたらいいか分からない」
「そんなこと、考えなくていい」彼は私の顎をくいと持ち上げた。「過去はもう終わったことだ。俺たちは前に進むんだ、一緒に」
過去はもう終わったことだ。笑いそうになった。あんたが他の女のために画策した、あの過去が?
その夜、私は林田祐二の規則正しい寝息を聞きながら横たわっていた。午前二時十七分、眠れそうになかった。目を閉じるたびに――プールに浮かぶ健太、炎に包まれる両親の家、黒石春子の計算された涙が浮かんでくる。
携帯が震えた。知らない番号からのテキストメッセージ。「メールをチェックしろ。――友人より」
私はベッドを抜け出し、バスルームでノートパソコンを開いた。ビデオファイルが添付された新着メッセージが一件。
黒石邸の防犯カメラ映像だった。日付は、私たちの婚約パーティーの前夜。
震える手で再生ボタンを押した。
黒石春子が、顔がはっきり見えない誰かと一緒にプールハウスに入ってくる。二人は数分間話し、インフィニティプールの方を指差している。それから黒石春子は携帯を取り出し、電話をかけた。
「明日の夜よ」彼女の声がはっきりと聞こえた。「加藤紗代が中にいる時に実行して。目撃者はカメラ以外にいないように」
彼女と一緒にいた人物が、光の中に足を踏み入れた。
林田祐二。
私の夫。私の救世主。私の両親を殺した男。
「その後はどうする?」録音された林田祐二の声。
「亮は悲しむ時間が必要でしょうね」黒石春子が答えた。「でも、長すぎない程度に。彼みたいな男には、心が壊れたか弱い女じゃなくて、強い女が必要なのよ」
「加藤紗代は?」
黒石春子の笑みは、純粋な悪意そのものだった。「紗代はもうすぐ問題じゃなくなるわ。私がそうさせてあげる」
私はノートパソコンを閉じ、バスルームの鏡に映る自分の顔を見つめた。怯え、感謝していた被害者はもういない。その場所には、もっと冷たく、もっと硬い何かがいた。
明日、私たちは両親の墓を訪れる。林田祐二はあの蘭を丁重に供え、もしかしたら涙さえ流すかもしれない。
だが、私はもう真実を知っている。すべての嘘を、すべての策略を、すべての死を。
今度は、私が被害者になるのではない。
今度は、私が狩る番だ。






