第10章 彼女とは結婚していない

相馬蛍の今回の帰国は、真田グループと接点を持つためだけじゃない。いくつもの案件を抱えての帰還だった。

HJグループでの本職は、商務部の副部長。スポーツカーのデザインは、ただの気まぐれ――のはずだった。ところがうっかり賞まで獲って、ついでに少し名も知られるようになり、真田グループから「指導役」として声がかかった。

そして夜七時。彼女は時間どおり、華道夫ホテル最大のバンケットホールに姿を現す。

目的のひとつは、碧海グループの供給提携を勝ち取ること。

相馬蛍は黒のロングドレス。肩紐の細いデザインで艶はあるのに、生地は重みがあって品が崩れない。ビジネスの場にふさわしい節度を保ちつつ、主張は控...

ログインして続きを読む