第119章 まだ行けない

黒谷優は横目で睨みつけ、刺々しい声を落とした。

「……だったら何だ?」

背後から、野口颯汰の冷えた声が刺さる。

「お前がどれだけ必死になろうが、海乃はもう振り向かない。あいつは裏切った人間に甘い顔なんてしないんだ。黒谷優、いまさらそんなふうに縋って、楽しいか?」

黒谷優の足が、わずかに止まった。

だが答えは返さず、そのまま階段を上っていく。

どこか、背中だけが妙にみじめだった。

――絶対に、南坂海乃の手を離さない。

たとえ死んでも、彼女が自分のもとへ戻るまで縋りつく。

自分が間違っていたことは、もう分かっている。何を代償にしてもいい。ただ、海乃に一度だけでも――こちらを見て...

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