第29章

桜井有菜はこれまで越前美也の母親のような颯爽とした女性を見たことがなかった。また、娘を守るために立ち上がる母親の姿も初めて目にした。これは彼女が十八年間一度も感じたことのない感覚だった。

心の中にゆっくりと酸っぱさが込み上げてきた。他人の母親は無条件に自分の子供を信じるのに、彼女の母親は?

桜井有菜は嘲るように口元を歪め、目元の熱さを押し殺すと、すぐに表情を平静に戻した。

「うちの明里ちゃんは冤罪よ。あなたたちこそ悪い人たち。みんなあなたたちのせいで、うちの明里ちゃんが...」秋山の母はまだ理不尽な言い分を続けていたが、秋山の父は我慢できなくなり、妻の顔を平手打ちした。

「こんな状況...

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