第124話グレイス

その虚無には、どうしても逃れられない何かがあった。私はそこから離れたくなかった。逃げ出したくなかったのだ。何も感じたくなかった。いや、違う。そんなものは欲しくない。生きることから生まれるものなんて、何ひとつ欲しくなかったのだ。

リースは私に戻ってきてくれと懇願し続けたが、無理だった。自分が溺れているこの海を切り開いて進むことなんてできなかったし、何よりも、そうしたいとすら思わなかった。

その気になれば、彼の罪悪感や落胆を感じ取ることはできた。だが、私は心を閉ざしたままにした。全てが終わった今、彼がどう感じているかなんて、私の知ったことではない。生まれて初めて私は利己的になっていた。そして、...

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