第9章

井上結衣視点

私は実家へ駆け戻った。手の震えが止まらず、鍵をドアに差し込むことさえままならない。

私が飛び込むと、母はキッチンにいた。物音に驚いて顔を上げる。

「結衣? どうしたの、あなた」

「お母さん」私は母の腕を、たぶん強すぎたんだろう、掴んだ。「美佳ちゃんのこと。美佳ちゃんを覚えてる?」

母はただ私を見つめるだけだった。「誰のこと?」

血の気が引いた。「あの子よ! 結婚式の最中に結婚式場に駆け込んできた、小さな女の子! 何週間も私と一緒にいたじゃない!」

「結衣……」母は、子供の頃に私が病気になるとよくしたように、私の額に手を当てた。「大丈夫? 心配になるわ」

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