第36章 彼女はこんなことはしない

西川安菜は、人前で有岡里穂の腹の内を暴いてしまえば、兄たちの関心は里穂から逸れ、そのうえで「有岡里穂はずいぶん計算高い」と思ってもらえる――そう踏んでいた。

だが、いざ口にしてみて初めて気づく。

リビングの空気は、自分の思い描いた方向へはまるで転がっていない。

むしろ、じわりと奇妙な気まずさが滲んでいた。

とりわけ、有岡哲哉が顔を上げて彼女を見たときだ。あの黒い瞳の奥に、かすかな疑念の色が浮かんでいるのを、西川安菜は見逃さなかった。

その一瞥だけで、心臓がどくんと跳ねる。

――哲哉兄さん、どうしてそんな目で私を見るの?

――もしかして、今の言い方……まずかった?

「里穂はそん...

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