第4章

ネットの炎上がようやく収まった頃。私は寮で、悪意ある中傷でめちゃくちゃにされた生活の後始末をしていた。その時、ドアがノックされた。

「三好夜さんはいらっしゃいますか? 成田玄と申します」

成田玄? あの業界で名高い、著名な監督? 私は不安な気持ちでドアを開けると、目の前には温和で上品な中年男性が立っていた。その眼差しは、真摯でひたむきだ。

「成田監督? どうして私に……?」

「君のオーディション映像と、ここ数日のネットでの一件を見させてもらったよ」

彼は穏やかに微笑んだ。

「どこか落ち着いて話せる場所はないかな?」

高級喫茶店の個室で、私は緊張しながらコーヒーカップを握りしめていた。三好家に戻ってから、こんなに誠実な目で見られたのは初めてだった。

「君の目には多くの物語が宿っている。この真実味は、演技学校では教えられないものだ」

成田玄はゆっくりと口を開いた。

「過分なお言葉です。私はまだ、何も分かっていないような……」

私の声は少し震えていた。

「私を信じてほしい。君にはトップ俳優になる素質がある。私が直々に指導したい」

私は自分の耳を疑った。

「どうして私を助けてくださるのですか? 私には後ろ盾もありませんし、三好家での私の立場もご存知のはずです。寵愛されない、後から来た者だということも……」

「私が重んじるのは才能だ。家柄などではない。私に一ヶ月時間をくれ。君を生まれ変わらせてみせる」

その瞬間、私は感動のあまり涙がこぼれそうになった。

やっと、やっと私を本当に見てくれる人が、認めてくれる人が現れた。

それからの日々、成田玄は確かに約束を果たしてくれた。

プライベートレッスン室の壁一面を鏡が埋め尽くしている。彼は監督用の椅子に座って根気強く指導し、私は舞台で同じシーンを繰り返し練習した。彼の丁寧な指導のもと、私の演技力は飛躍的に向上し、一つ一つの眼差し、一つ一つの動きが、より的確で力強いものになっていった。

「もう一度。今度は君の最も絶望的な感情を引き出して」

彼の声は相変わらず穏やかだった。

「どうしていつも、こんな悲劇のヒロインばかり演じさせるんですか?」

私は少し疑問に思った。

「君の苦しみは最もリアルで、最も人の心を打つからだよ」

だが、次第に私は何かがおかしいと気づき始めた。

私が役の苦しみに没頭している時、成田玄は私の演技ではなく、私の感情の揺れ動きを観察している。

彼の眼差しは過剰なまでに探るようで、密かに録画までしていた。

休憩中、彼が電話に出た隙に、私は彼のノートを盗み見た。

『怒りの沸点:家柄に触れられた時』、『感情爆発の閾値:中程度』……これは何?

私はノートを手に取り、心臓が激しく脈打つのを感じた。

成田玄は慌てて電話を切り、ノートをしまい込んだ。

「ああ、これは私の仕事の癖でね。俳優の特徴を記録しておくと指導しやすいんだ」

「こんなに詳しく記録を?」

彼の目をじっと見つめると、私の感情感知能力が自然と発動した。

彼の心に一瞬の狼狽がよぎったが、すぐにそれは抑え込まれた。

この男は、嘘をついている!

その日のトレーニングが終わった後、私は帰るふりをして、実際はレッスン室の外の非常階段に身を隠した。薄暗く狭い空間で壁に身を寄せ、ドアの隙間から部屋の中で電話をしている成田玄の姿を窺う。

彼の表情は、普段とはまるで別人のように冷たく、狡猾だった。

「奴の心の防衛線は想像以上に脆い。捨てられた話に触れさえすれば、感情が制御不能になる」

成田玄の声は氷のように冷酷だった。

電話の向こうから、聞き慣れた甘ったるい笑い声が聞こえる。

「最高! 孤児院出身なんて、メンタルが弱いって分かってたわ」

三好雪晴!

「計画通り、奴を芸能界に完全に絶望させて、自ら引退させる」

「あなたって本当に賢いわ、ベイビー。あいつが消えたら私たちの恋人関係を公表しましょうよ。その時はあなたが監督で私が主演、完璧じゃない!」

「安心しろ。奴はもう俺に依存し始めている。次は自信を叩き潰すだけだ」

その言葉の一つ一つが、刃物のように私の心臓に突き刺さる。

この一ヶ月の温もりは、全て偽りだったなんて……。

私は目を閉じた。18年間で初めて、これほどまでに胸が張り裂けるような裏切りを感じた。絶望が頂点に達したその瞬間、私の体内の感情共感能力が質的な飛躍を遂げた。

もはや感情を感知するだけではない。他人の知覚を、直接操作できる!

私は再びドアを押し開け、レッスン室へと足を踏み入れた。顔には何事もなかったかのような笑みを浮かべて。

「成田監督、指導を続けてください。もっと学びたいんです」その声は恐ろしいほどに平坦だった。

成田玄は携帯をしまい、再びあの温和な仮面を被る。

「あ……ああ、続けようか……」

「監督は、最も絶望的な感情を引き出せと仰いましたよね。ぜひ、お手本を見せていただきたいのですが」

私はゆっくりと彼に歩み寄った。

「あなたの、一番の絶望の苦しみを、見せてくださいな……」

私が声を低めると、成田玄は異変に気づいた。

「な……何を言っているんだ?」

彼は後ずさりし始めた。

私はアップグレードした能力を起動し、それらの感情を全て彼の脳内に叩き込んだ!

レッスン室の照明が明滅し始め、鏡には歪んだ光景が映し出される。

成田玄には、無数の三好雪晴が彼を嘲笑うのが見え、全世界から踏みにじられる絶望を感じていた。

「やめろ……恐ろしい……助けてくれ……」

彼は頭を抱えて床にひざまずいた。

「頼む! 全部白状する! 君に近づいたのは三好雪晴に言われたからだ! 俺たちは付き合っている! 全て計画だったんだ!」

彼は完全に崩壊した。

「結構。今すぐその言葉を録画しなさい。さもなければ、一生その恐怖の中で生きさせることになるわ」

「私は成田玄です。私が三好夜を騙したことを認めます……この全ては、三好雪晴が企てた陰謀です……」

彼は震えながら動画を撮り終えた。

私は携帯をしまい、床に崩れ落ちた成田玄を見下ろす。

また一つ、駒が落ちた。

三好雪晴、男一人で私を潰せると思った? 甘いわね。

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