第88章 スピード

死にたがる者を救う神などいない。飲酒運転をする藤原南は、果たして何度死神の鎌から逃れられるというのか。その車の姿が完全に見えなくなるまで見送ってから、水原寧々は後部座席に体を戻した。

「どうしたんだい? 知り合いか、お嬢ちゃん」

運転手が好奇心から尋ねてくる。

「いいえ、知りません」

水原寧々は淡々と答え、内なる動揺を隠そうとした。幼い頃の藤原南を思い出す。意地っ張りで頑固、誰も彼を止められなかったが、あの頃の彼だけは自分の言うことだけを聞き入れてくれた。

目を閉じ、その記憶を懸命に拭い去ろうとする。かつての美しさと痛みが交錯し、彼女の心を複雑に掻き乱していった。

「おや、こんな...

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