第3章

西園寺古里視点

週末。私は自室の窓辺に立ち、薄いカーテンの隙間から階下に停まる黒いレクサスを覗き込んでいた。

黒木直樹は、本当に来てしまった。

数週間前のカフェでの『偶然の出会い』以来、私はずっと神経を尖らせていた。彼がこのまま何もしないはずがないとは思っていたけれど、まさかこんなに早く家にまでやってくるとは予想していなかった。早川真井は興奮した様子で電話をかけてきて、彼女の『王子様』が今夜、家族に会うために夕食に来るのだと告げた。

「古里!下りてきて手伝いなさい!」

母の声が階下から響く。その声には、明らかに緊張と興奮が混じっていた。

私は深呼吸を一つして、髪を撫でつけた。あまりおかしな態度を取れば、怪しまれるだけだ。これはごく普通の、家族での夕食なのだと自分に言い聞かせなければならなかった。

だが、階段を下りてリビングにいる見慣れた姿を目にした瞬間、私の足は思わずすくんだ。

黒木直樹は、深い青色のカシミアセーターに黒のスラックスという、まるで雑誌から抜け出してきたような完璧な恋人といった出で立ちで、リビングに立っていた。彼はお父さんと話しながら赤ワインのグラスを傾け、その表情は真摯で丁寧そのものだった。

「投資機会としては非常に有望です」

彼の声が部屋の向こうから届く。

「私のファンドもちょうど、複数のテクノロジー系スタートアップの買収を終えたところです」

父は熱心に耳を傾け、相槌を打ちながら頷いている。

「古里!」

私に気づいた早川真井が、すぐに黒木直樹の腕に絡みついた。

「こっちに来て、私の彼氏の黒木直樹よ。直樹、この子が話してた義理の妹の西園寺古里」

黒木直樹が振り向く。かつて光を失っていたはずの瞳――今は星のように輝くその目が、まっすぐに私を捉えた。完璧な笑みを浮かべ、彼は手を差し出す。

「こんにちは、西園寺古里さん。真井からよくお話は伺っています」

私はその手を握るしかなかった。彼の指は記憶にあるのと同じように温かかったが、二年前よりも力強くなっていた。肌が触れ合った瞬間、電流が走ったような震えが全身を駆け抜けた。

「……こんにちは」

声を平静に保とうとしたが、震えているのが自分でもわかった。

彼の指が、早川真井にも両親にも気づかれないほど軽く、私の手のひらを掠めた。だが、それが偶然でないことはわかっていた。

「手が冷たいね」と、彼は囁くように言った。

「もっと自分を大事にしなきゃ」

その言葉は、以前、私が恐怖で手が冷たくなるたびに彼が口にした、優しい気遣いの言葉を思い出させた。あの頃は、それが本物の優しさだと思っていた。今ならわかる。あれもまた、彼の支配欲の現れに過ぎなかったのだと。

「夕食の準備ができたわよ!」

満面の笑みを浮かべたお母さんが、キッチンから顔を出した。この『完璧な婿候補』にすっかり感心しているのが見て取れた。

食卓での黒木直樹は、どの親も夢見るような理想の青年だった。お母さんにはパリから特別に取り寄せたというフランス香水を贈り、父とは投資の話で年に似合わぬ成熟ぶりを見せ、そして早川真井には信じられないほど気を配っていた。時折料理を取り分けてやったり、まるで彼女が世界で一番魅力的な人間であるかのように、その話に集中して耳を傾けたりした。

「直樹さんって、本当に完璧ね」

母が感嘆の声を漏らさずにはいられないといった様子で言った。

「礼儀正しくて、才能があって。真井、本当に幸運だわ」

「若くて、実績もあって、将来有望だ」

父も賛辞を付け加える。

「真井、いい彼氏を見つけたな」

早川真井は得意げに微笑んだ。

「私のこと、今まで会った中で一番特別な女の子だって言ってくれるの」

私は俯いたまま、皿の上のステーキを切り分け、必死に黒木直樹の方を見ないようにした。もし、この『完璧な彼氏』の正体を知ったら、彼の父がかつて無力な少女を監禁したことを知ったら、この人たちはそれでも彼をこうして褒めそやすのだろうか。

「古里、どうしてそんなに静かなの?」

早川真井が突然、私の沈黙に気づいた。

「直樹ってすごいと思わない?」

顔を上げざるを得なくなり、黒木直樹と視線がぶつかった。彼は、十年前、私が本を読むのを眺めていた時と同じ、あの見慣れた深い感情を瞳に宿して私を見ていた。

「もちろん」

私はなんとか笑顔を作った。

「お似合いのカップルだと思うわ」

「趣味があるんです」

黒木直樹が不意に口を開いた。その声はまるで天気の話でもするかのように穏やかだった。

「おもちゃを集めるのが好きでしてね。特に、ドラえもんは。奇跡の象徴だと思いませんか?」

私は危うく水のグラスを落としそうになった。

ドラえもん。それは、私たち二人だけが知る暗号だった。十年前、あの地下室で、私が隅で恐怖に縮こまっていると、彼は優しくドラえもんの物語を語り聞かせ、それが希望をもたらしてくれるのだと言った。それ以来、彼は私を安心させたい時や、合図を送りたい時には、いつもドラえもんに言及した。

今、彼は家族の食卓で、皆の前で、私たちの秘密の合言葉を口にしたのだ。

「私……そういうキャラクターはよく知らなくて」

声が震えた。

黒木直樹は私に微笑みかけた。

「大丈夫ですよ。いつかまた好きになります。一度愛してしまったものは、なかなか忘れられないものでしょう?」

彼の言葉に含まれた意味はあまりにも明白だったが、他の誰もがそれをただの雑談として受け止めていた。彼が忘れていないこと、すべてを覚えていることを告げているのだと知っているのは、私だけだった。

夕食後、早川真井が黒木直樹に家の中を案内しようと提案した。

「私たちの家はあなたのところほど豪華じゃないけど、居心地はいいのよ」と彼女は言った。

黒木直樹は丁寧に案内への興味を示した。彼らが私のそばを通り過ぎる時、彼は突然立ち止まった。

「古里さん、書斎を見せてもらえませんか?真井からあなたが読書好きだと聞いて、どんな本を集めているのか興味があるんです」

早川真井は不満そうな顔をした。

「彼女の退屈な本を見て何になるの?私の部屋の方がずっと面白いわよ」

「文学にはとても興味があるんです」

黒木直樹は優しく説明した。

「それに、あなたの家族のことをもっとよく知りたいので」

彼の理屈は完璧だった。早川真井は不承不承ながらも、断ることができなかった。

私は彼らを階上へ案内するしかなかった。二階の廊下を通り過ぎる時、半開きになったドアを指差した。

「あそこが書斎です」

早川真井がドアを押し開けて中に入り、部屋の間取りを説明し始めた。彼女が気を取られている隙に、黒木直樹はわざと数歩遅れて私の隣を歩いた。

彼の声は柔らかく、私にしか聞こえないほどの大きさだった。

「二年ぶりに会ったね、コリン。想像していたよりもずっと綺麗になった」

コリン。古里。

それは彼が私につけた、彼だけが知り、彼だけが使うニックネームだった。

私の体は硬直したが、心の奥深くで何かが震えているのを感じた。それは恐怖だろうか?それとも、あの埋もれた複雑な感情だろうか?

「人違いです」

私は平静を装うのに必死だった。

「何のことだか分かりません」

彼は低く笑った。その声には懐かしさと、所有欲と、そして深く息を詰まらせるような何かが含まれていた。

「そうかな?」

彼は私の頬に触れようとするかのように手を伸ばしたが、寸前で止めた。

「じゃあ、どうして震えているんだい?」

「直樹!こっちに来てこれ見て!」

早川真井が書斎から呼んだ。

彼は手を引っ込め、私に意味ありげな笑みを向けた。

「話す時間はたっぷりある。急ぐことはないさ」

そう言うと、彼は書斎に入っていき、完璧な恋人の役を続けた。

私は廊下に立ち尽くし、足の力が抜けて、かろうじて立っているのがやっとだった。これがほんの始まりに過ぎないことを悟っていた。彼は私の家族に入り込むことに成功し、全員の信頼を勝ち取った。そして私は、十年前と全く同じように、再び獲物となったのだ。

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