第8章

西園寺古里の視点

B市でのあの一ヶ月は、美しい夢のようだった。そして今、黒木直樹は私を特別な場所に連れて行きたいと言った。

「F市?」

私は彼が荷造りするのを見ながら、一抹の不安を覚えて尋ねた。

「どうして急にそこへ?」

彼は手を止め、そばに来て私の頬を優しく撫でた。

「コリン、二人だけの場所に連れて行きたいんだ」

その慣れ親しんだ優しさに、不安は瞬く間に溶けていった。この一ヶ月、彼は行動でその変化を証明してくれたのだ。何を心配することがあるだろう?

「わかったわ、あなたを信じる」

プライベートジェットがF市の小さな空港に着陸した時、窓から紺碧の海がちらりと見え...

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