第1章

十歳だったあの夜、私のすべてが変わった。

バンッ!

安アパートのドアが勢いよく開き、父が酒の匂いをぷんぷんさせて、よろめきながら入ってきた。目は充血し、顔には誰かに殴られたような血まみれの引っかき傷が一面に広がっていた。

ソファで寝ていた私は目をこすりながら起き上がった。「パパ? どうしたの?」

父は答えなかった。ただ駆け寄ってきて、私の手首を掴んだ。その手は震えていたけれど、痛いほど強く握りしめられていた。

「絵里花」父の声は怖くて、しゃがれていた。「すまない、絵里花。だが、俺にはもう、選択肢がないんだ」

「選択肢って何? パパ、何言ってるの?」父の常軌を逸した振る舞いに、私は恐怖を感じた。

そのとき、黒いスーツを着た男たちが数人入ってきた。彼らは私を、まるで値踏みするみたいに見た。

「この娘か?」リーダー格の男が尋ねた。

父の声が震えた。「娘です。借金のカタに、この子を」

世界が、足元から崩れ落ちていくような気がした。

「パパ!」私は叫び、逃げようともがいたが、父は力を緩めない。「何するの!? 離して!」

「すまない、絵里花。本当に、他にどうしようもなかったんだ……」父の顔を涙が伝った。それでも、彼は私を離そうとはしなかった。

黒服の男が近づいてきて、私を父から引き剥がした。私は抵抗し、泣き、叫んだけれど、無駄だった。最後に見たのは、膝から崩れ落ちて泣いている父の姿だった。

車は夜の闇を走り抜け、私は後部座席に押し込められていた。もう涙も出ないほど泣きじゃくった後だった。

『何が起きてるの? どうしてパパはこんなことを? 私はどこに連れて行かれるの?』

永遠とも思える時間が過ぎて、車が止まった。

連れてこられたのは、思わず見とれてしまうほど豪華な、巨大な屋敷だった。けれど、私は母屋には連れて行かれなかった。まっすぐ地下室へと引きずられていった。

重い鉄の扉が開けられたとき、血の匂いがした。

薄暗い光の中、彼がいた。

部屋の中央に、十八歳の羅瀬野真琴が立っていた。膝をついた男の頭に、銀色の銃を突きつけて。

「てめえが俺の両親を殺した時、随分楽しそうだったじゃねえか」彼の声は冷たく、空虚だった。

しかしその男は答えなかった。

「何も言わねえのか、いいだろう、どうせ俺も拷問が趣味ってわけじゃねえ、楽にしてやる……だがな」彼は話の調子を変えた「一人で地獄に行くのも寂しいだろうからな、安心しろよ、俺は優しいんだ、ゆっくりとお前に関係する奴らを全員見つけ出して、お前の元に送ってやる、礼はいらない、当然のことだ」

男の顔色は忍耐から絶望へと変わり、何か言おうとしたようだが、声を発する前に、

「いい表情だ、その恨みと後悔を抱いて死ね」

バンッ!

銃声に、私は悲鳴を上げた。

真琴は私の声に気づき、ゆっくりと振り返った。その深い青色の瞳が、私を見て驚きに見開かれた。

「ガキ……?」彼は眉をひそめた。「信介の奴、いつから借金をガキで払うようになったんだ?」

「ボス、父親が借金の返済にと、この娘を」部下の一人が言った。

真琴は私を上から下まで値踏みするように見ると、私の目線まで屈んだ。間近で見ると、彼の瞳は海のように美しかった。でも、あまりに冷たくて怖くて、直視できなかった。

「名前は?」と彼が尋ねた。

「絵里花……」かろうじて、そう囁いた。

「歳は?」

「じゅ、十歳です」

真琴は一瞬私をじっと見つめ、それから立ち上がった。「上の階に連れて行け。部屋を用意してやれ」

「ボス、信介の借金は……」

「娘がいて運が良かったな」真琴は冷たく言った。「だが、あいつへの落とし前は後でつける」

私はあの恐ろしい地下室から連れ出され、年老いた執事の後について母屋へと向かった。もうあの悍ましい場所にはいないのに、気分は少しも晴れなかった。これが私の悪夢の始まりに過ぎないのだとわかっていたから。

年老いた執事の義雄は、人の良さそうな背が高い男性で、歩きながら私を安心させようと話しかけてくれた。

「お嬢ちゃん、怖がらなくていいんですよ。羅瀬野様は厳しく見えますが、本当は悪い方ではありませんから」

豪華な廊下を通り、次から次へと現れる美しい部屋を過ぎて、私たちはピンク色のドアの前で足を止めた。

「ここが今日からお前の部屋だ」背後から真琴の声がした。

振り返ると、彼は温かいミルクの入ったカップを手にしていた。こちらへ来ると、私の目線まで屈み、それを差し出した。

「飲め。温まるぞ」その声は、地下室で聞いたときよりずっと優しかった。

私はミルクを受け取り、恐る恐る一口飲んだ。温かい液体が、少しだけ心を落ち着かせてくれた。

「怖がるな、ちびすけ」真琴が優しく私の髪に触れた。「ここでは誰も、お前を傷つけたりしない」

そのとき、義雄が小さな注射器を持ってやってきた。「羅瀬野様、血液型を調べさせていただきます」

私は怖くて後ずさったが、真琴が穏やかに言った。「すぐ終わる。痛くない」

義雄は優しく私の血を少量採ると、近くの機械でそれを検査した。一分ほどして、彼は言った。「RHマイナスの血液です!」

真琴の目が鋭くなった。「確かか?」

「はい、羅瀬野様」義雄は静かに答えた。

彼らが何の話をしているのかわからなかったけれど、私の血が彼らにとってどういうわけか重要だということだけは伝わってきた。

真琴はそれ以上何も言わず、ただピンク色のドアを開けた。

部屋は可愛らしく、ピンクのカーテン、ふかふかのベッド、そしてたくさんのおもちゃがあった。子供を閉じ込めておく牢屋のようにはまったく見えなかった。まるで、誰かの娘のために用意された部屋のようだった。

「少し眠れ」真琴はそう言うと、部屋を出て行こうとした。

「待って!」私は勇気を振り絞って彼を呼び止めた。「あなた……本当に、私を傷つけない?」

真琴は立ち止まり、私を振り返った。その瞳には、私には理解できない複雑な感情が宿っていた。「ああ。傷つけない」

彼が去った後、私は一人で部屋を見回した。化粧台に行くと、古い写真が置いてあるのに気づいた。

写真には、白いドレスを着て微笑んでいる、七、八歳くらいの小さな女の子が写っていた。不思議なことに、その女の子はどこか私に似ていた……。

私はその写真を手に取り、じっと見つめた。頭の中は疑問でいっぱいだった。

『この子は誰? どうして私に似てるの? どうしてこの子の写真がこの部屋に?』

外では足音が遠ざかり、屋敷全体が静寂に包まれた。私は写真を胸に抱き、ベッドの上で丸くなって、また泣き始めた。

明日何が起こるのか、自分がどうなってしまうのか、何もわからなかった。

わかっていたのは、今夜を境に、私の人生が永遠に変わってしまったということだけだった。

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