第3章

また、あの白い医務室だ。

「絵里花、今日はいつもより多く血が必要だ」

義雄の声に、私ははっと我に返った。まっすぐに座り直す。

「いつもより、ですか?」

普段はせいぜい二パック。今回はもっと多くなる――多すぎるかもしれない、と直感した。

「美沙の容態が悪化している。治療のためにもっと血液が必要なんだ」

戸口から聞こえてきたのは真琴の声だった。そちらに目をやると、彼がストレスを滲ませた表情で部屋に入ってくるところだった。黒いシャツを着ていて、その顔は今まで見たことがないほど険しい。

美沙に何があったのか、なぜ私の血だけが彼女を助けられるのか聞きたかったが、私は口を閉ざした。私に質問する資格なんてない。

「……わかりました」

冷たい椅子に再び体を横たえ、針が腕に刺さるのを見つめる。肉体的痛みはさほどでもないのに、心がずしりと重くなった。この血は本当は真琴のためではなく、美沙のためのものだけれど、それでも力になりたかった。

たとえそれが他の女性のためであっても、彼の心配を少しでも和らげられるのなら。

鮮血が透明なパックへと流れ込んでいく。普段よりずっと多い――おそらく三日分はあるだろう。

「顔色が悪いぞ」

隣の椅子に座った真琴が、心配そうな声で言った。

「平気です。慣れてますから」

平静を装ったが、体から血が抜けていくにつれて、めまいがし始めた。視界がぼやけ、手足が氷のように冷たくなっていく。

『倒れちゃだめ。真琴さんの前で弱いところは見せられない』

だが、体は言うことを聞かない。パックがいっぱいになるにつれて意識が遠のき、目の前が真っ暗になった。

「絵里花!」

真琴の声が遠くに聞こえる。けれど、その声がいかに恐怖に満ちているかはわかった。必死に目を開けようとすると、パニックに陥った彼が私を見下ろしているのが見えた。

「止めろ!」彼は義雄に命じた。

「しかし若様、もう少しで……」

「止めろって言っただろう!」

真琴が義雄にあんな風に怒鳴るのを聞いたのは初めてだった。老人は慌てて針を抜き、私の腕に包帯を巻いた。

起き上がろうとしたが、世界がぐらりと揺れて、再び横にならざるを得なかった。

「絵里花、大丈夫か?」

真琴が私の額に手を当て、熱がないか確かめる。その優しい手つきに、思わず涙がこぼれそうになった。

「大丈夫です。それで美沙さんが助かるなら」

真琴は私をじっと見つめた。その瞳に宿った変化が何なのか、私には読み取れなかった。彼は何も言わず、ただ私の顔を記憶に刻み込むかのように見つめていた。

「どこかへ行く前に休め」

彼は静かにそう言うと、立ち上がって部屋を出て行った。

その夜遅く、水を飲みにキッチンへ向かった。真琴の執務室の前を通りかかると、中からひそやかな話し声が聞こえた。

私はそっとドアに近づき、隙間から中の声に耳を澄ませた。

「若様、絵里花様の健康状態が……」

心配そうな義雄の声だった。

「わかっている」真琴の声は疲れていた。「彼女を注意深く見ておけ。毎回、採血の前後には必ずチェックしろ」

「もし彼女の体が持たなくなったら……」

「彼女の身に何かあれば、美沙を救えなくなる」

真琴の言葉に、私の心は沈んだ。やはり私は、美沙を救うための道具でしかないのだ。

だが、次に彼が口にした言葉に、私は衝撃を受けた。

「……だがそれ以上に」真琴は一瞬言葉を切り、低く危険な声になった。「絵里花に万が一のことがあれば、簡単に済まさない!」

私は声を出さないように、自分の口を手で覆った。真琴は今まで聞いたこともないような殺気立った声色をしていた。それは道具に対する話し方じゃない――大切に想う相手にかける言葉だ。

『私を、守ってくれてる……?』

心臓が激しく鳴り始めた。

「はっ、はい、若様。彼女には最高の食事と薬を用意させます」

「それだけでは足りん」真琴の声がさらに硬くなる。「明日からは週に一度だけにしろ。美沙のことは……別の方法を探す」

『別の方法? 私のために?』

自分の耳を疑った。真琴が、私のために、美沙を救う別の方法を……?

足音が近づいてくるのが聞こえ、私は急いで自室へ駆け戻った。心臓が激しく高鳴っている。ベッドに横になっても、聞いた言葉が頭から離れず、すべてが変わってしまったように感じた。

もしかしたら私は、真琴にとってただの道具ではないのかもしれない。彼は私のことを、本当に気にかけてくれているのかもしれない。

翌日の夕方、体力を回復させようと庭を散歩していた。美沙が東屋に座り、紅茶を飲んでいた。病人のはずなのに、完璧に健康そうに見える。

私がゆっくりと歩いているのを見つけると、彼女は甘い声で呼びかけた。

「絵里花さん、とても弱っているように見えるわ」

思いやりのある声に聞こえたが、何かがおかしいと感じた。

「大丈夫です、美沙さん」

ちょうどその時、真琴が部屋から出てきた。私たち二人が一緒にいるのを見て、彼は足早にこちらへやってくる。

「絵里花、ベッドで休んでいるべきだ」

「真琴さん、これは少し採血しすぎじゃないかしら?」美沙が心配そうな声で言った。「絵里花さん、とても青ざめているわ」

それを聞いて、真琴は罪悪感を覚えたような顔をした。「仕方ないんだ。お前を救えるのは、絵里花の血だけなんだ」

美沙は俯き、申し訳なさそうに言った。「私のせいで絵里花さんが苦しまなければならないなんて、本当に心が痛むわ……」

だが、私は見逃さなかった――彼女が俯いたその一瞬、笑みを浮かべたのを。意地の悪い、満足げな笑みを。

その微笑みに、私の血の気が引いた。

美沙は本当に病気なのだろうか? それとも、これはすべて、嘘なのだろうか?

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