第49章

桐生初夏は体内を這い回る不快感を必死に押さえ込み、無理やり口角を上げた。

「ちょっと力が抜けただけです。少し休めば大丈夫」

神崎司が冷ややかに視線を走らせる。――この女、平然と嘘をつく。

地下室に足を踏み入れた瞬間、鼻を刺す妙な匂いがした。すぐに分かった。催淫作用のある迷煙だ。

そこに“乞食”まで用意されていたとなれば、桐生麻衣の狙いなど一目瞭然。

腹の底が冷える。

心術が正しくない女だとは前から知っていた。だが、実の姉にこんな――人として許されない真似をするとは。

「……本当に、平気です」

桐生初夏の頬は不自然に赤い。両手は神崎司の服をぎゅっと掴んだまま、離そうとしない。

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