第52章

桐生初夏も驚いていた。久野敬志のことは詳しく知らない。ただ、外で女遊びばかりしている男で、手塚蘭とは夫婦仲が悪い――そんな噂を耳にした程度だ。

だが、今の様子を見る限り……噂は本当らしい。

「桐生さん……いや、違うな。従妹って呼ぶべきか」

「子ども同士のケンカなんて、よくある話だろ? ここはもう、このへんで手打ちにしないか?」

久野敬志はにこにこと距離を詰め、流れるように桐生初夏の肩へ手を回した。

ふわり、と鼻先をくすぐる甘い香り。

それだけで心が浮つき、目尻がいやらしく細まる。

その視線の下卑た光を捉え、桐生初夏の胃の奥がむかついた。

肩をすっと落として手をかわし、冷たく言...

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