第3章

 そう言い残して、私はその場を後にした。

 だが、車に乗り込んで間もなく、私のスマートフォンに匿名の写真が何枚か送られてきた。

 背景はフォーシーズンズホテルのスイートルーム。画面の中では、アレクサンダーとあの若いインターン生のクロエが、大きなベッドの上で裸で絡み合っていた。

 薄暗い照明の中でも、彼がその娘の腰に手を添えた時に浮かべている、溺れるような、情欲に心を奪われた表情がはっきりと見て取れた。

 それは、彼と苦楽を共にし、必死に駆け抜けてきたこの五年間で、私が一度も向けられたことのない甘い眼差しだった。

 直視に堪えないこれらの証拠を前に、胃の中が激しく掻き回されるような吐き気を覚えた。

 直後、発作による激痛が容赦なく私を襲う。しかも、これまでのどのときよりも頻繁に、そして強烈に。

 引き裂かれるような痛みに瞬く間に全身の力を奪われ、冷や汗が背中をびっしょりと濡らす。

 私は車のシートに必死に身を丸め、震える指でスマートフォンの画面を握り潰しそうになっていた。

 一週間後。オフィスで鎮痛剤を飲んでいた私の元に、受付から電話が入った。クロエと名乗る女性が、どうしても私に会いたいとゴネているらしい。

「通して」

 薬を飲み込み、水を一口含む。

 入ってきたクロエは、先日のパーティーの時よりもさらに妖艶に着飾っていた。

 全身を高級ブランドで固め、限定モノのエルメスのバッグを提げた彼女の顔には、小悪党が図に乗ったような傲慢さが浮かんでいる。そして、わざとらしく捲り上げられた袖口からは、見覚えのあるパテック・フィリップがギラギラと手首を飾っていた。

「ヴィクトリアさん。今日来たのは、アレクサンダーのことでお話ししたくて」

 ずけずけとデスクの向かいの椅子に腰を下ろすと、彼女はこれ見よがしに手首を上げて髪を梳き、その時計を誇示してみせた。

「手短に」

 私は顔を上げることもなく、手元の財務諸表に視線を落としたままで促した。

「アレクサンダーはもう、あなたのことなんて愛してないわ。彼が本当にリラックスできるのは、私と一緒にいる時だけなの」

「あなたは気が強すぎて、息が詰まるんですって」

 クロエは勝ち誇ったように笑う。

「それにね、来月には私をプロジェクトディレクターに引き上げてくれるって、彼、約束してくれたのよ」

 私はようやく顔を上げ、この身の程知らずな小娘を見据えた。

「厚顔無恥とはこのことね」

 氷のように冷え切った声が口をついて出る。

「私を怒らせたらどうなるか、分かっているの?」

「あら? お金で私の顔を叩くつもり? それとも、権力を振りかざして私をクビにでもする?」

 クロエは完全に舐め切っていた。

「アレクサンダーは今やシリコンバレーの寵児よ。彼の会社ももうすぐ上場するわ。あなたがまだ彼を操れるとでも思ってるの?」

 私はそれには答えず、卓上の電話を手に取り、アレクサンダーの会社の最大出資元であるファンドの責任者にかけた。

「ジョン、ヴィクトリアよ。アレクサンダーの会社のシリーズCラウンドだけど、私のファンドは手を引くわ」

「ええ、即時実行して。それから業界の他のファンドにも伝えておいて。あそこの株を引き受けるところは、私への宣戦布告と見なすって」

 電話を切ると、クロエの勝ち誇ったような笑みは完全に凍りついていた。彼女は勢いよく立ち上がり、極度のショックで甲高く上擦った声を上げる。

「気でも狂ったの?! あなたが資金を引き揚げたら、アレクサンダーの会社は資金繰りがショートしちゃうじゃない!」

 だがすぐに、彼女は無理やり先ほどの傲慢さを取り繕い、強がって冷笑を浮かべた。

「そんなふうに脅せば私たちが怯むとでも? アレクサンダーの能力は業界でも誰もが認めているわ。すぐに新しい投資家が……」

 そのわめき声を無視し、私は再び電話のボタンを押す。今度はアレクサンダーの会社の人事部長への直通ダイヤルだ。

「ヴィクトリアよ。そちらのクロエというインターン生、今すぐ解雇して。それから、業界全体に彼女をブラックリスト入りさせなさい。リファレンスチェックは全部ネガティブで返すように手配して」

 わずか二分。私は受話器を置いた。

 クロエは私がここまで徹底的にやるとは思っていなかったのだろう。それでも、どこから湧いてくるのか分からない無駄な強気で己を支え、歯を食いしばって負け惜しみを吐き出した。

「私をクビにするですって? あなたのその一言でどうにかなると思ってるの? アレクサンダーは私をプロジェクトディレクターに引き上げるって直接約束してくれたのよ! 彼がそんなこと、絶対に許すはずないわ!」

 そして、まるで私の行動がただの虚勢だとでも言わんばかりに、限定版バッグのストラップを自慢げに直してみせた。

 途端、彼女のバッグの中でスマートフォンがけたたましく震え出した。

 私を勝ち誇ったように一瞥してから電話に出る。わざわざスピーカーフォンにして。

「もしもし? リンダさん、どうしたの? もしかしてディレクターの……」

「クロエ! あんた、一体どんな大ポカをしでかしたのよ?! たった今、全グループに通達が出たわ! あんたは即刻解雇よ! 今すぐ戻ってきて自分の荷物をまとめなさい、明日から来なくていいから! しかも業界内にブラックリストの通達まで回ってるわ。今日からあんたみたいな厚顔無恥なインターンを雇う会社なんて、どこにもないからね!」

 電話の向こうからの怒り狂った怒声が、広々としたオフィスに響き渡った。

 クロエの顔から、傲慢な色が瞬時に消え失せ、真っ青になる。最後の一滴まで血の気が引いた彼女は、弾かれたように立ち上がり、金切り声を上げた。

「どうしてそんなことするのよ。アレクサンダーが知ったら、絶対にあなたをタダじゃおかないわよ!」

「それがどうしたの?」

 私は彼女を冷ややかに見据えた。

「彼を今の地位まで引き上げたのは私よ。泥の底まで引きずり下ろすことだって造作もないわ。それに、あなたは——」

 立ち上がり、私は不意に彼女の手首を掴み上げた。

「身の程を弁えなさい」

 恐怖に見開かれた目を射抜くように睨みつけながら、私は思い切り力を込め、彼女の手首ごと、そのパテック・フィリップを硬い大理石のデスクに激しく叩きつけた。

 ガシャンッ——鋭い破砕音と共に、文字盤のガラスが瞬時に砕け散り、四方へ飛び散る。

「いやあああ! これ、アレクサンダーが誕生日にくれたプレゼントなのに!」

 クロエは悲鳴を上げ、必死に私の手を振り解くと、無惨に壊れた時計を庇うように押さえた。

「これ、数百万もするのよ、分かってるの?!」

「ええ、知ってるわ。だってそれ、私が買ったものだもの」

 私は蔑むように彼女の手を振り払い、除菌シートを一枚引き抜いて指先を拭った。

「さあ、そのガラクタと一緒に、ここから消えなさい」

 クロエは全身を小刻みに震わせながら、這々の体でオフィスから逃げ出していった。

 十分後。資金引き揚げの知らせを受けたアレクサンダーから、狂ったように着信が入り始めた。

 私はすべて着信拒否にする。

 すると今度は、メッセージが滝のように流れ込んできた。

「ヴィクトリア! 電話に出てくれ! 一体何があったんだ?」

「どうしてファンドを引き揚げさせたんだ? 俺の会社はもうすぐ上場するってのに!」

「この会社を立ち上げるために、五年間一緒に頑張ってきたじゃないか、忘れたのか?」

 この五年間、彼のその滑稽なほどの自尊心を守るため、私たちは周囲にずっと関係を隠し通してきた。

 私の両親の資産のおかげで成り上がったと思われたくない、会社が上場したら世界中の前でプロポーズするから、と彼は言っていた。

 そして今、会社はついに上場を迎えようとしているというのに、彼は自らの手でこれらすべてをぶち壊したのだ。

 私は返信することなく、そのまま彼をブロックした。

 それからアシスタントに指示を出し、スイス行きの航空券を手配させた。

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