第百五章 物は元の主のもとへ

翌日の午後、幼稚園のトイレは静まりかえっていた。水道管がときおりぽたりと滴る音だけが、タイル張りの壁に反響している。

心音は一番奥の個室に篭もり、膝の上に立てたタブレットを覗き込んでいた。画面には細かいコードが隙間なく並んでいる。指が素早くキーを叩き、口の中でぼそぼそと呟く。

「もうちょっとで尻尾を掴まれるところだった……意地悪なおじさんのお金って、ほんとに取りにくい。次はもっと気をつけなきゃ」

昨日は教室でスマートウォッチから命令を出した。今日はタブレットで最後の実行ステップを完了させなければならない——ウォッチの画面では小さすぎて、複雑な操作ができないから。

最後のコマンドを送信し...

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