第16章 もう会わないでください

神崎倫司はシートベルトを外すと、ドアを開けて車を降りた。私もあとに続く。

「行こう。中、入るぞ」

渓谷へ足を踏み入れた瞬間、思わず息をのんだ。もう晩秋だというのに、谷じゅうの斜面が花で埋め尽くされ、いまが盛りと咲き誇っている。

花の海の向こう、ぽつりと一棟だけ建つ建物が、霞の奥にかすかに見え隠れしていた。

神崎倫司の背を追ってその独楼へ入ると、建物の裏手には温泉の湯船がいくつも連なり、湯気がゆらゆらと立っている。

眉が自然と寄った。まさか、私を温泉に入れるつもり?

口にする前に、女の係が衣類を抱えて近づいてきた。

「神崎さん、瀬川さん用のお召し物、ご用意できております」

神崎...

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