第83章 気まずい言葉

「ううん。ないよ」

 瀬川雫の育った環境が、本人の言う通り恵まれていなかったのかもしれない。けれど、それは私を傷つけていい理由にはならない。

 前世で彼女が重ねた数々を思えば、彼女の「善良」なんて、瀬川家に戻ってきたばかりの短い期間にしか存在しなかった。時が経てば――名家の争いの中で、それはきっとすり減って消えていく。

 家に着くと、雫が車のドアを開けて降りた瞬間、伯父さんの声が飛んできた。

「雫、帰ったか。凪紗もいるんだろ。ほら、降りてきて一緒に座りなさい」

 瀬川庭山がそう言うと、雫は振り返ってにこにこと私を見る。

「凪紗、お父さんが中で少し休んでいきなさいって」

 断れず...

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