第10章

翔太の誕生日だと思えばこそ、安野香苗はその場で爆発せずにこらえた。

その我慢も、安野月子の目には怯えとしか映らなかった。

「でも、お姉さんは心が広いものね。私なんかに、いちいち腹を立てたりしないでしょ」

月子は勝ち誇ったように眉を上げると、香苗の腕の中から翔太をぐいと引きはがした。

「翔太、もう休む時間よ。帰りましょ」

安野香苗をへこませられる――そう思っただけで、月子の胸につかえていたものは、すっと晴れたらしい。

腹いせのつもりなのだろう。わざと腰を折り、頬を指さして翔太にねだった。

「ほら、キスして?」

翔太は慣れた様子で両腕を月子の首に回し、頬へちゅっと音を立てて口づけ...

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